選択の自由 2010 5 30
書名 日本の大問題が面白いほど解ける本
著者 高橋 洋一 光文社新書
民主党の看板政策である「子ども手当」は、
有識者には、バラマキ政策であるとして、
あまり評判がよくないでしょう。
しかし、高橋氏の本では、
この政策は、肯定的に評価しているように思えます。
たとえば、新しい教育予算を5兆円創設したと仮定すると、
今までの予算の使い方では、
都道府県や市町村を通じて学校に配られる方式でした。
この方式では、学校関係者の顔は、
予算を配分する役所ばかり向いてしまいます。
ところが、この5兆円を都道府県や市町村を経由せず、
直接、家庭へ支出すれば、
学校関係者の顔は、現在よりも各家庭のほうに向くようになり、
それは、学校経営の改善につながるかもしれませんと指摘します。
確かに、このような方式ならば、
学校経営は、大手の塾のように、サービス向上を競うようになり、
家庭においては、教育分野における「選択の自由」が拡大すると思います。
同時に、教育行政分野において、構造改革(行政改革)が進むかもしれません。
このように考えれば、民主党の政策は、
決して、バラマキ政策ではなく、
選択の自由を拡大しつつ、行政改革を狙った画期的な政策かもしれません。
ところが、今の民主党は、労働組合に依存する体質であるために、
このような画期的な政策は実行できないかもしれません。
こうして、民主党政権下では、
「子ども手当」という新予算はできるが、構造改革は進まないということで、
結局、政府予算は拡大の一途をたどることになる。
高橋流に解釈すれば、このような結論を導いてよいのでしょうか。
同氏の本を読むと、気分は、選択の自由を重視する経済学派になってしまいます。
もちろん、子ども手当が、教育費に使われず、
娯楽に使われてしまえば、こうした仮説は成り立たないことになります。
淡水系と塩水系 2010 1 24
書名 マネー資本主義を制御せよ
著者 中丸 友一郎 朝日新書
タイトルに、魚類学のような名称をつけましたが、
やはり、経済の話です。
少し長くなりますが、引用します。
(以下、引用)
米国経済学会には、伝統的に、
通称、「淡水系」「塩水系」と呼ばれる2つの流れがある。
(中略)
財政赤字問題を例にとれば、シカゴなどの淡水系の経済学者は、
もし早期に財政赤字を抑制しなければ、
金利上昇につながり民間投資を阻害することになりかねないと警告する。
財政赤字は経済を刺激するどころか、
インフレ上昇を助長し、新しい景気後退を招きかねないと説く。
しかし、ハーバードやMITなどの塩水系の経済学者たちは、
それは間違いだと反論する。
インフレ懸念はなく、大幅な財政赤字はデフレを回避するために必要であり、
赤字を削減することは、
経済に潜むデフレ圧力をかえって増幅させると考える。
それは、新たな、より厳しい景気後退を生む危険があると説く。
では、金融政策に関しては、どうだろうか。
淡水系は、流動性の巨額な積み上がりは、
間違いなくハイパーインフレの道につながり、
中央銀行には出口政策を準備するよう勧告するだろう。
しかし、塩水系なら、それはナンセンスだと反発するだろう。
流動性の積み上がりは、銀行がバランス・シートを改善するために
資金をため込んでいることを意味するに過ぎないと。
また、銀行は現金の山の上に座っている形だが、
信用を増やすために使っているわけではない。
経済が回復すれば、中央銀行は流動性を直ちに引き揚げることが可能であり、
インフレ・リスクはゼロだと説くだろう。
(以上、引用)
活発な議論があるアメリカが、うらやましい。
日本の学会の場合、「長い物には巻かれよ」という雰囲気があると思います。
あるいは、御用学者という言葉があります。
著者によると、日本がバブル経済のころ、
アメリカの高名な学者が、
「日本の経済は一流なのに、経済学は二流、
アメリカでは経済学は一流なのに、経済が二流なのは、不思議だ」と
嘆いた話があるそうです。
「長い物には巻かれよ」
目上の人や勢力のある人には、
争うより従っている方が得である(広辞苑)。
日本の政界の場合も、
こうした傾向が強いでしょう。